部下にフィードバックをしても、なかなか次の行動につながらない。そんなときに目にするのが「フィードフォワード」という言葉です。
この記事では、フィードフォワードの意味とフィードバックとの違いを整理したうえで、自律型人材育成プログラムInsideSparkで未来に向けた問いをどう使っているかを紹介します。
フィードフォワードとは
フィードフォワードとは、過去の行動を評価するのではなく、これからの行動をよくするために問いや情報を向ける関わりのことです。
もとは制御工学の言葉です。結果を見てから修正するフィードバック制御に対して、起こりうる変化を先に見込んで手を打つ仕組みを指していました。
人材育成の文脈では、「指摘」ではなく「次にどうするか」に向かう関わりとして使われています。僕自身も以前から、フィードバックは過去への指摘、フィードフォワードはその逆、という意味でこの言葉を使ってきました。
ところが調べてみると、同じ「フィードフォワード」という名前で、出どころの違う2つの手法がありました。
2つのフィードフォワード
ゴールドスミス氏の手法
エグゼクティブコーチのマーシャル・ゴールドスミス氏が広めた手法です。流れは次のとおりです。
・自分が変えたい行動を1つ選び、相手に伝える
・相手から、未来に向けた提案を2つもらう
・過去への評価や批判はしない。もらった提案にも評価を返さず、お礼だけを言う
1回2分ほどのやりとりを、相手を変えて何度もくり返します。同氏は、まだ起きていない未来は批判のしようがないため、相手が身構えずに聞けると説明しています。研究で効果を検証した手法ではなく、実務の中で広まった手法です。
クルーガー氏らのフィードフォワード面談
研究者のクルーガー氏とニール氏が、2010年に論文で提案した面談の手法です。うまくいっている部分を掘り下げて組織を変える「アプリシエイティブ・インクワイアリー」という手法の、強みを聞き出す面談がもとになっています。
・仕事で力を発揮でき、結果が出る前から満たされていた経験を話してもらう
・その経験を可能にした条件(自分の工夫や強み、周りの支え、組織の条件)を言葉にしてもらう
・次の四半期の行動や計画に、その条件がどれだけ入っているかを考えてもらう
カナダの企業で行われた現場実験では、上司とこの面談を行った社員は、従来型の評価面談を受けた社員より高い成果を上げていました。
名前は同じですが、クルーガー氏らの論文にゴールドスミス氏への言及はなく、2つは別々に生まれた手法です。
フィードバックとの違いは、時間の向きだけではない
フィードバックは過去、フィードフォワードは未来。この理解は正しいです。2つの手法はどちらも、未来の行動をよくするための関わりです。
ただ、時間の向きだけで覚えると、「フィードフォワードなら過去を振り返らなくていい」と受け取られがちです。クルーガー氏らの面談は、うまくいった過去を材料にしていました。違うのは過去を使うかどうかではなく、どんな過去を、何のために使うかです。
もう一つの違いは、相手の注意が向かう先です。評価を含むフィードバックは、相手の注意を「自分がどう見られたか」に向けやすく、伝え方によっては成果を下げてしまうことが研究で分かっています。
この点はフィードバックとは?部下の評価面談で逆効果にならない伝え方にまとめました。InsideSparkでは、未来に向けた問いは、相手の注意を「次に何をするか」に向けやすい関わりだと考えています。
教育研究では、ハッティ氏とティンパーリー氏が2007年に、よいフィードバックを3つの問いで整理しています。
・「どこへ向かっているのか」
・「今どこまで来ているのか」
・「次はどこへ向かうのか」。
最後の問いが「フィードフォワード」と呼ばれています。この整理では、フィードフォワードはフィードバックと対立するものではなく、よいフィードバックの一部です。
フィードフォワードは、取りに行ける人に育てるもの
ゴールドスミス氏の手法では、本人が変えたい行動を選び、自分から提案を取りに行きます。理想的な形ですが、最初からこれができる人は多くありません。何を変えたいのかが、本人の中でまだ整理されていないからです。
InsideSparkは、次期リーダー候補の中堅社員に1年間伴走するプログラムです。初月に、1年後のなりたい姿と、その背景にある価値観を聞きます。その後は毎月のグロース・ガイド面談で、コーチが質問を重ねて本人の頭の中を整理します。どうするかを選ぶのは、本人です。
取りに行くことを最初から求めるのではなく、取りに行ける人に育てていく。InsideSparkで未来に向けた関わりを使うときの前提は、ここにあります。
描く未来は「在り方」と「実績」の2つ
InsideSparkで聞く1年後の姿には、2つあります。どんな自分でいたいかという「在り方」と、何を成し遂げたいかという「実績」です。
実績を聞くときも、「なぜその実績なのか」と目的や背景まで聞きます。シェルドン氏とエリオット氏の1999年の研究では、本人の価値観や関心に沿った目標ほど努力が続き、達成されやすいことが示されています。理由が本人の中にない目標は、途中で手が止まりやすいのです。
1年後の姿が決まったら、そこから逆算して今の行動に落とします。そして、過去の事実の振り返りは飛ばしません。日報で日々の事実を残し、何がうまくいき、何がうまくいかなかったかを確かめたうえで、次の行動を選びます。
事実を観察する意味は、内省とは?研修をしても部下が変わらないのは、事実を観察していないからだったで詳しく書いています。
良い未来を描くだけでは、動けない人もいる
未来に向けた関わりは、良い状態を描くことが前提になっています。ところが、良い未来を描くだけでは行動のエンジンがかかりにくい人が、実際にいました。
研究にも、これと重なる結果があります。エッティンゲン氏とマイヤー氏は2002年、4つの研究で未来の考え方と行動の関係を調べました。「うまくいくだろう」という見込みは努力と成果を高めた一方、理想の未来を思い描いて浸る「空想」は、努力と成果を下げていました。就職活動を2年後まで追った研究では、空想に浸っていた学生ほど応募も内定も少なく、給与も低かったのです。
そこでInsideSparkでは、「1年後どうなっていたくないですか?」とも聞きます。反対側を聞くと、本当になりたい姿がはっきりします。そして人によっては、「こうはなりたくない」という自分への気持ちが、動き出すスイッチになります。
オイザーマン氏とマーカス氏が1990年に13〜16歳の238人を調べた研究では、「こうなるだろう」という自分と、同じ分野の「こうはなりたくない」自分を両方持っている若者は、非行のないグループでは8割以上だったのに対し、非行の多いグループでは37%にとどまりました。職場の研究ではありませんが、なりたい姿となりたくない姿を両方持つことの意味を示しています。
ただし、何かを避けること自体を目標にすると逆効果です。エリオット氏らの1997年の研究では、避けることを目標にした人は、学期を通じて幸福感が下がっていました。なりたくない姿は目標そのものにせず、なりたい姿をはっきりさせ、動き出すきっかけとして使います。
上司が使える3つの問い
ここまでの関わりは、上司と部下の間でも使えます。InsideSparkで実際に使っている問いを3つ紹介します。
「1年後どうなっていれば、自分としては最高ですか?」
なりたい姿を、本人の基準で、しかも一番高いところで描いてもらう問いです。「自分としては」と「最高」の両方に意味があります。
この問いは、2つの方向から聞きます。一つは、会社や上司から求められている自分です。評価を受けるために必要な姿で、分かりやすく描けます。そのためInsideSparkでは、上司の方にも「どうなってほしいか」を聞いています。
もう一つは、会社や上司といった外の条件に関係のない自分です。何の制限もないとしたらどうなりたいかを聞くと、本人の価値観につながる、本当になりたい姿が見えてきます。
この2つを線で結べたとき、人は自律型人材に近づきます。自律型人材の特徴と育て方は、自律型人材とは?伴走で育てる人材育成にまとめています。
「1年後どうなっていれば、自分を盛大に承認できますか?」
他者からの承認だけでは、その姿が本人の価値観と一致しているとは限りません。自分で自分を認められるかどうかを聞くと、なりたい姿が本人の価値観とつながっているかが見えてきます。
価値観と一致していれば、成長は加速し続きます。一致していないと、あとから「そもそも、別になりたいと思っていなかった」となることもあります。InsideSparkでは、良い面も悪い面も含めて自分を受け入れる「自己受容」を、大切なテーマとして扱っています。価値観をつかむには、自己受容が欠かせないからです。
「1年後どうなっていたくないですか?」
反対側から聞く問いです。答えをそのまま目標にするのではなく、なりたい姿と見比べて、本当に望んでいることを確かめるために使います。
答えが出てきたら、それが在り方の話か、実績の話かを一緒に分け、実績なら「なぜそれなのか」まで聞きます。上司の役割は答えを評価することではなく、本人が自分の考えを整理するのを手伝うことです。
この記事のFAQ
フィードバックはやめて、フィードフォワードだけにした方がいいですか?
やめる必要はありません。ゴールドスミス氏自身も、リーダーがフィードバックをすべきでないという意味ではないと書いています。
フィードバックは、原因を突き止めることに向いています。事業でも人の成長でも、結果を左右した要因を捉えて改善することは欠かせません。ただし、その対象は人ではなく、行動や事実、成果です。
やってはいけないのは、人に対して「なぜ?なぜ?」と問い続けて追い込むことです。現場では、これが案外多く起きていると感じています。一方で、「なぜそう思ったのか?」のように、本人の考えを整理するための問いとして使うのは問題ありません。
部下が「なりたい姿なんてない」と答えたら、どうすればいいですか?
「では、なりたくない姿は?」と聞きます。なりたい姿が出てこない人でも、なりたくない姿がない人はほとんどいません。
InsideSparkの受講者は、成長意欲があり、自分から参加を表明した人たちです。その前提で関わる中で、なりたい姿がどうしても出てこない場合も、それはないのではなく、頭の中がまだ整理されていないだけだとInsideSparkでは考えています。だからこそ、問いを重ねて整理を手伝います。
まとめ
・フィードフォワードは未来に向けた関わりだが、過去の事実の振り返りは飛ばさない
・本人が取りに行く形を最初から求めず、問いで整理して、自分で選べる人に育てる
・未来は「在り方」と「実績」の2つで描き、実績には目的や背景まで聞く
・良い未来だけでは動けない人には、「なっていたくない姿」も聞く。ただし目標そのものにはしない
正直に言うと、2つの手法を読み比べて、InsideSparkの関わりと重なる部分が多いことに驚きました。問いで本人から引き出す点はクルーガー氏らの面談に、本人が選ぶ点はゴールドスミス氏の手法に近い。
一方で、「なっていたくない姿」を聞くことは、どちらの手法にもありません。2つの手法がうまくいった経験や前向きな提案だけを扱うのに対して、InsideSparkでは、本当になりたい姿を確かめるため、そして人によっては反対側からの方が動き出せるという現場の実感から、この問いを使っています。
未来をどう描くかは、人によって違います。描き方を一つに決めず、その人が動き出せる描き方を一緒に探すこと。それも伴走の役割だと考えています。
部下の育て方や関わり方に迷ったら、無料の個別相談会でお気軽にご相談ください。
出典
・Goldsmith, M. Try Feedforward Instead of Feedback. https://www.marshallgoldsmith.com/post/try-feedforward-instead-of-feedback
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