「もうちょっと考えて動いてほしい」
部下に当事者意識を持ってほしいと思って、そう伝えたことのある社長や上司の方は多いと思います。ところが、言えば言うほど、部下はかえって上司の顔色をうかがうようになる。そんな手応えのなさを感じていないでしょうか。
この記事では、当事者意識の意味を主体性との違いも含めて整理します。
そのうえで、上司が知らないうちに部下の当事者意識を奪ってしまう関わりと、当事者意識が育つ条件を、研究と実際の例をもとに紹介します。
当事者意識とは
当事者意識とは、目の前の仕事や問題を他人事ではなく、「自分ごと」として引き受けている状態のことです。
InsideSparkでは、自分ごとを次の3つの感覚で捉えています。
・自分の時間を、自分の意思で使っている感覚
・自分の未来に期待が持て、目の前の行動と未来がつながっている感覚
・自分の意思と行動が一致している感覚
3つをまとめると、「主語が自分で、ハンドルを自分で握っている状態」です。
仕事に置き換えると、与えられた業務を「こなす対象」として扱うか、「自分の材料」として扱うか、という違いになります。
主体性・自主性との違い
当事者意識と似た言葉に、主体性や自主性があります。InsideSparkでは、次のように整理しています。
主体性や自主性は、自分から動くという「行動」の側を表す言葉です。
一方で当事者意識は、その手前にある「自分の問題として引き受けているかどうか」という捉え方の側を表します。
自分ごとになっていれば、動き方は後からついてきます。逆に、自分ごとになっていないまま行動だけを求めると、動いているように見せることが目的になってしまいます。
「当事者意識を持て」と言っても、持てない理由
当事者意識は、言われて持てるものではありません。
「自分ごとだ」という感覚は、本人の中に生まれるものだからです。
それでも「当事者意識を持て」と求められると、部下は何をするか。
上司が考える「当事者意識がありそうな振る舞い」を探し始めます。つまり、上司の頭の中にある正解を探すようになります。これは、当事者意識とは正反対の状態です。
部下の当事者意識を奪ってしまう上司の関わり
当事者意識が育たない職場では、上司が先ほどの3つの感覚の逆をやってしまっていることがよくあります。
・やり方や手順まで、細かく指示する(自分の意思で時間を使えない)
・目的や背景を伝えず、作業だけを渡す(行動と未来がつながらない)
・本人の意見を聞かずにやらせる。上司の考えと違うと否定する(意思と行動が一致しない)
この関わりが続くと、部下は自分で考えることをやめ、上司が求める正解を探すようになります。
上の人の振る舞いで、社員が諦めと答え探しに向かっていく様子は、心理的安全性がぬるま湯になる理由と、成長する職場との違いでも紹介しています。
当事者意識は、関われた分だけ育つ
では、どうすれば当事者意識は育つのか。参考になるのが、「心理的オーナーシップ」の研究です。
米国の研究者ピアース氏らは2001年の論文で、人が会社や仕事などに「これは自分のものだ」と感じる心理を、心理的オーナーシップと呼びました。
実際に所有していなくても、人は仕事やプロジェクトを自分のものとして感じることがある、という考え方です。
この研究では、その感覚が生まれる経路として次の3つが挙げられています。
・自分で動かせる(対象をコントロールできる)
・よく知っている(対象を深く理解している)
・自分を注ぎ込んだ(時間や労力、考えを投じている)
上司の関わりに置き換えると、こうなります。
・決める範囲を渡す。
・目的や背景を伝えて、仕事をよく知ってもらう。
・本人の考えを仕事に入れてもらう。
どれも、先ほどの「当事者意識を奪う関わり」のちょうど裏返しです。
決める範囲の渡し方は、権限委譲とは?業務ではなく判断基準を渡すと任せられるで詳しく書いています。
部署長だけの数字が、全員の数字になった例
InsideSparkの受講企業で、こんな変化がありました。
その部署では、数字の目標は部署長だけが背負うものでした。受講したのは、その部署のメンバー1名です。
受講開始から3か月ほどたった頃、部署の全員で1年間の方向性を話し合い、合意する1日の会議を開きました。InsideSparkの研修とは別に、僕が企画とファシリテーションを担当したものです。
そこから、部署の様子が変わりました。
営業やカスタマーサクセスといった職種に関係なく、目標が未達だった月は全員で悔しがり、達成した月は全員で喜びを爆発させる。部署長だけの数字だったものが全員の数字になりました。
もちろん、これはInsideSparkだけの成果ではありません。
ただ、受講者1人の変化が、チーム全体の変化の着火剤になったことは間違いないと考えています。
自分たちで方向性を決め、その議論に自分の考えを注ぎ込んだことが、数字を自分ごとに変えたのだと思います。
InsideSparkでの関わり
InsideSparkは、次期リーダー候補の中堅社員に1年間伴走する自律型人材育成プログラムです。
受講者は初月に、1年後のなりたい姿を自分で決めます。
毎月のグロース・ガイド面談では、受講者の選択に対して、コーチが「今回、なぜその選択をしたのか」を聞きます。日報とAIコーチング(ウチガワ)では、毎日の行動を自分の言葉で振り返ります。
自分で決め、自分の考えを言葉にし、自分の行動を振り返る。この繰り返しが、仕事を「こなす対象」から「自分の材料」に変えていきます。
指示がないと動けない状態がなぜ生まれるのかは、指示待ちの部下が生まれる理由で整理しています。
この記事のFAQ
当事者意識が関わりで育つなら、全部任せてしまえばいいのですか?
いきなり全部を任せる必要はありません。判断の基準がそろっていないまま大きく任せると、失敗が続き、かえって「自分には無理だ」と感じさせてしまいます。
任せる範囲は、個人の1日の動き方のような小さな単位から始めます。最初は目的や背景を伝えながら上司が教え、少しずつ本人に考えてもらう関わりに切り替えていきます。
関われる範囲が広がるほど、自分ごとの範囲も広がっていきます。
まとめ
・当事者意識とは、仕事や問題を自分ごととして引き受けている状態。主体性が「行動」の側なら、当事者意識はその手前の「捉え方」の側
・「当事者意識を持て」と求めるほど、部下は上司の正解を探すようになる
・細かく指示する、目的を伝えない、意見を聞かずにやらせる。この3つが当事者意識を奪う
・当事者意識は、自分で動かせる、よく知っている、自分を注ぎ込んだ、という経験から育つ
・任せる範囲は小さく始めて、関われる範囲を少しずつ広げる
当事者意識は、持たせるものではありません。関われる場所があるかどうかで、育つかどうかが決まります。
組織づくりや部下の育て方に迷ったら、無料の個別相談会でお気軽にご相談ください。
出典
・Pierce, J. L., Kostova, T., & Dirks, K. T. (2001). Toward a theory of psychological ownership in organizations. Academy of Management Review, 26(2), 298–310.



