2026.09.30部下・メンバーの育て方

内発的動機づけとは?「やらされる」が「やりたい」に変わる4段階

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内発的動機づけとは?「やらされる」が「やりたい」に変わる4段階

「言われたことはきちんとやる。でも、自分から動く気配がない」
部下を見て、そう感じたことはないでしょうか。

この記事は、自律型人材の育て方を多角的に解説するシリーズの一つです。

今回は「内発的動機づけとは何か」「外発的動機づけとどう違うのか」、そして「やらされる」状態の部下が「やりたい」に変わっていくまでの順序を、心理学の研究と実際の受講者の変化をもとに詳細に解説します。

お時間に限りがある方は、取り急ぎ目次より気になる点からご確認ください。

内発的動機づけとは何か

内発的動機づけとは、活動そのものが面白い、やりがいがあるという理由で取り組んでいる状態のことです。

報酬や評価がなくても、やっていること自体が報酬になっています。心理学者のエドワード・デシ氏とリチャード・ライアン氏が提唱した、自己決定理論の中心にある概念です。

一方の外発的動機づけは、報酬、評価、叱られないためなど、活動の外側にある理由で取り組んでいる状態を指します。

職場に置き換えると、次のような違いです。

  • 内発的動機づけ:誰に言われるでもなく、新しいツールの使い方を調べて試してみる。顧客の課題を解くこと自体が面白くて、つい考え続けてしまう
  • 外発的動機づけ:評価面談で指摘されないように資料を整える。インセンティブが出る期間だけ、架電数を増やす

自己決定理論そのものについては、「自己決定理論とは?部下が自分から動き出す3つの条件。」で解説しています。

外発的動機づけは「悪」なのか

内発的動機づけの話になると、よく引き合いに出されるのが「アンダーマイニング効果」です。

もともと面白くて取り組んでいたことに外から報酬を与えると、かえって意欲が下がってしまう現象を指します。

デシ氏らが128の実験を統合して分析した研究(1999年)では、あらかじめ約束された形のある報酬は、取り組むだけでもらえるもの、やり遂げたらもらえるもの、成果に応じてもらえるもののいずれも、人が自由時間に自分から取り組む行動を減らしていました。

一方で、肯定的なフィードバックは、内発的動機づけを高めていました。

ただし、報酬がすべて悪いわけではありません。職場への応用を整理したガニエ氏とデシ氏の論文(2005年)によれば、給与のように特定の作業に紐づかない報酬や、予期していなかったボーナスでは、こうした低下は見られませんでした。

なお、1999年の分析の多くは子どもや大学生を対象にした実験で、形のある報酬の悪影響は子どもの方が大きく出る傾向がありました。職場にそのまま当てはめるには、慎重さが必要です。

それでも、ここから読み取れることがあります。

問題は報酬の有無よりも、「これをやったら、これをあげる」という渡し方によって、本人の関心が活動そのものから報酬の方へ移ってしまうことです。

そしてもう一つ大事なのは、外発的動機づけはそれ自体が「やりたい」への入口になりうるということです。

「やらされる」は、「やりたい」の入口になる

自己決定理論には、外発的動機づけをひとまとめにせず、その理由がどれだけ本人のものになっているかによって、4つの「調整」に分ける考え方があります。調整とは、ここでは行動を方向づけている理由のことです。

ここでは、黒田祐二氏の論文(2022年、福井県立大学論集)の整理を参考にします。親や教師の関わり方によって、子どもや青年の中でルールや価値観の内面化がどう進むのかについて、これまでの実証研究をまとめた論文で、4つの調整を日本語で丁寧に整理しています。日報を例に、それぞれを見てみます。

外的調整

報酬をもらうため、叱られないためなど、外からの力で動いている状態です。「上司に言われたから、日報を書く」。上司の目がなくなると、行動も止まりやすくなります。

取り入れ的調整

外からの要求を半分だけ自分の中に取り込み、「やらないと不安」「できないと恥ずかしい」という内側の圧力で動いている状態です。「出さないと周りにどう思われるか不安だから、日報を書く」。一見自分から動いているようで、動かしているのは不安や見栄です。

同一化的調整

その行動の価値を、自分で認めて動いている状態です。「振り返ると翌日の段取りが良くなるから、日報を書く」。書くこと自体が楽しいわけではなくても、自分にとって大事だと納得しています。

統合的調整

その行動の価値が、自分の価値観や目指す姿とつながり、矛盾なく一体になっている状態です。「顧客に誠実でありたい自分にとって、振り返りは欠かせないから、日報を書く」。

自己決定理論では、外的調整と取り入れ的調整をまとめて「統制的な動機づけ」、同一化的調整と統合的調整、そして内発的動機づけをまとめて「自律的な動機づけ」と呼びます。

前者は外や内からの圧力で動いている状態、後者は自分で納得して動いている状態です。外から与えられた理由が本人のものとして取り込まれ、統制的な側から自律的な側へ移っていくことを「内面化」と呼びます。

一点、正確に押さえておきたいことがあります。4つの調整は、すべて外発的動機づけに分類されます。

分ける基準は、始まりが外からだったかどうかではなく、今その行動を何のためにしているかです。

統合的調整でも、日報を書くのは自分の大切にしていることを実現する手段としてであって、書くこと自体が楽しいからではありません。書くこと自体が面白くて書いているなら、それは内発的動機づけです。

つまり「やりたい」には2種類あります。

自分にとって意味があるからやりたい、という内面化された「やりたい」と、活動そのものが面白いからやりたい、という内発的な「やりたい」です。

この2つは、どちらかを経由してもう一方に進むという関係ではなく、同じ人の中に同時に生まれたり、混ざり合ったりします。やらされて始めたことの中で、活動そのものの面白さに出会うこともあります。

だとすれば最初の「やらされる」状態は、意欲不足の兆候でも、育成の失敗でもありません。「やりたい」に向かう途中の、一つの段階です。

「やらされる」が「やりたい」に変わる4つの段階

では、内面化は実際にどう進むのか。先ほどの4つの調整は「理由の種類」の分類でしたが、ここからはInsideSparkで見てきた変化をもとに、「やらされる」から「やりたい」までの行動の流れを、4つの段階として整理します。

have to(やらされる)

理由は、まだ外側にあります。上司に言われたから、研修の課題だから。

実践(まず、やってみる)

理由は外側のまま、とにかく一度やってみます。

実感(効果を確かめる)

やってみた結果、何かが効いた、面白かった、という手応えを本人がつかみます。

want to(やりたい)

取り組む理由が、外側から本人の内側に移ります。

転換点は「実感」です。僕たちが見てきた限り、理由が外から内に入れ替わるのは、誰かに説得された瞬間より、自分で効果を確かめた瞬間であることがほとんどです。

ある受講者の例を紹介します。

この方は、InsideSparkへの参加自体には前向きでした。ただ受講前は、上司から考えの浅さや、誰かの受け売りのような言葉遣いを指摘されることが多かったそうです。

変化が起きたのは受講2か月目、「習慣化」をテーマにした基礎研修を受けた後でした。それまで、自宅の最寄り駅に着いてから家までの時間は、大好きなお笑いラジオを聴くのが習慣でした。この時間を、関心のある人や分野の動画で学ぶ時間に置き換えてみたのです。

最初は、研修で扱った習慣化を試してみる、という位置づけでした。ところがやってみる中で、自分の知らないことを知れる面白さに気づきます。そこから、自分で学ぶテーマを選び・計画し・実行するようになっていきました。

この変化の起点は、「学べ」と言われたことではありません。どの時間を置き換えるかを自分で選び、実際に面白さを確かめたことでした。

「やりたい」への変化は、上司の関わり方と結びついている

同じように「やらされる」から始まっても、実感までたどり着く人と、途中で止まる人がいます。上司の関わり方が、部下の自律的な動機づけと関係していることは、研究で示されています。

職場での研究を統合したスレンプ氏らの分析(2018年、72の文献・約3万3千人)では、上司が部下の視点に立ち、理由を説明し、選択の余地を与える関わり方(自律性支援)をしているほど、部下の自律的な動機づけが高いという相関が見られました(相関の強さを示す値で0.38)。職務満足とは0.56、離職意向とはマイナス0.40の相関です。

ただし、この分析に含まれる研究の大半は、上司の関わり方と部下の動機づけを同じ時点で測った調査です。

両者が一緒に高い傾向があることは分かっても、上司の関わりが先で意欲が後なのか、もともと意欲の高い部下だから上司が任せやすいのか、といった順序までは分かりません。

また上司の自律性支援は、統制的な動機づけ(外的調整・取り入れ的調整)とはほぼ相関がありませんでした。上司の関わり方は、「圧力を取り除く」ものというより、「自分から動く側を伸ばす」ものだと捉える方が正確です。

以前、「「部下にやる気がない」は本当か?自律型人材が生まれる条件」の記事で、やる気がない社員に無理矢理働きかけるのは無意味だと書きました。

今回の話と矛盾するように見えるかもしれませんが、分かれ目は「何を渡すか」です。意味がないのは、「もっとやる気を出せ」と意欲そのものを迫る関わりです。意味があるのは、実感にたどり着くための行動を、理由と一緒に渡す関わりです。

段階ごとに、上司ができること

4つの段階それぞれで、上司が渡せるものがあります。

have toの段階:理由と、最初の一歩をセットで渡す
「これをやって」だけでなく、なぜそれをやるのかを伝えます。理由を説明することは、自律性支援の基本の一つです。あわせて、最初の一歩を小さく具体的にしておくと、実践に移りやすくなります。

実践の段階:やり方に、選べる余地を残す
何をやるかは決まっていても、いつやるか、どうやるかは本人に選んでもらいます。先ほどの受講者も、どの時間を学びに置き換えるかは自分で決めていました。

実感の段階:何が効いたかを、本人の言葉にしてもらう
上司が「良くなったね」と伝えるのは大切です。ただ、それより先に、本人に何が効いたのかを言葉にしてもらう方が、実感は強く残ります。具体的な問いかけの例は、「「仕事がつまらない」は本人だけの問題ではなかった?」で紹介しています。

何が効いたのかを事実から観察する考え方は、「内省とは?研修をしても部下が変わらないのは、事実を観察していないからだった」で解説しています。

want toの段階:止めずに、任せる範囲を少し広げる
本人が自分から動き始めたら、細かく管理し直さないことです。任せる範囲を少しずつ広げることで、「やりたい」が次の実践を生む循環に入ります。

InsideSparkでの実装

InsideSparkは、中堅社員を対象にした1年間の伴走型プログラムです。この4つの段階を、1年の中で何度も回せるようにしています。

基礎研修の課題は、多くの受講者にとって最初はhave toです。それを、AIコーチング「ウチガワ」と日報で、毎日の実践と内省につなげます。そして月に一度の上司報告会で、本人の変化を上司と一緒に確かめます。上司報告会は、実感を本人だけのものにせず、上司からも返してもらう場です。

先ほどの受講者は、その後メタ思考を学んでから、小さなトラブルやうまくいかなかったと感じた場面での受け止め方が変わりました。以前は感情的になっていたところを、何を考えればよいのかを落ち着いて捉えられるようになり、ウチガワとの内省そのものが楽しみになっていったそうです。

InsideSparkという名前には、内側に火花を灯すという意味を込めています。その火花は、誰かに点けてもらうものではなく、本人が実感を重ねる中で自分の内側に生まれるものだと考えています。

この記事のFAQ

「やらせる」ことは、部下の自律を奪いませんか?

何をやらせるかより、どう渡すかで変わります。理由を説明し、やり方に選べる余地を残して渡すことで、「やらされる」は「やりたい」への入口になりやすくなります。逆に、理由を伝えず、やり方まで細かく指示すると、本人の中で理由が外側に留まったままになりやすくなります。

まとめ

・「やらされる」状態の部下は、意欲不足でも育成の失敗でもなく、「やりたい」に向かう途中の段階として見る
・報酬を渡すときは、「これをやったら、これをあげる」という渡し方に注意し、成果を認める肯定的なフィードバックを添える
・変化の順序は、「やらされる」→「まず、やってみる」→「効果を確かめる」→「やりたい」。転換点は、本人が自分で効果を確かめる実感
・上司が渡せるのは、理由と最初の一歩、やり方を選べる余地、何が効いたかを本人が言葉にする機会、任せる範囲の少しずつの拡大
・上司の自律性支援は、部下の自律的な動機づけの高さと関係している。ただし研究の多くは同じ時点の相関で、因果までは言えない

「やる気がない」と見えている部下の多くは、この4つの段階のどこかにいるだけです。最初の「やらされる」を否定せず、実感まで一緒にたどり着けるかどうかが、上司にできる一番大きな仕事だと僕は考えています。自社の場合はどうなのか、無料の個別相談会でお話を伺います。

出典
・Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125(6), 627-668.
・Gagné, M., & Deci, E. L. (2005). Self-determination theory and work motivation. Journal of Organizational Behavior, 26(4), 331-362.
・Slemp, G. R., Kern, M. L., Patrick, K. J., & Ryan, R. M. (2018). Leader autonomy support in the workplace: A meta-analytic review. Motivation and Emotion, 42(5), 706-724. https://link.springer.com/article/10.1007/s11031-018-9698-y
・黒田祐二(2022)「社会的行動に対する自律性支援とその内面化との関係―実証研究の概観―」福井県立大学論集 第58号、117頁〜 https://fpu.repo.nii.ac.jp/records/255

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