2026.09.30部下・メンバーの育て方

内省とは?研修をしても部下が変わらないのは、事実を観察していないからだった

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内省とは?研修をしても部下が変わらないのは、事実を観察していないからだった

研修を受けてもらった。本人も「分かりました」と言っている。それなのに、現場での行動が変わらない。

そんな経験はないでしょうか。

この記事は、自律型人材の育て方を多角的に解説するシリーズの一つです。今回は、内省とは何か、反省とどう違うのか、そして内省しているはずなのに変わらない人がいるのはなぜかを、自己認識の研究をもとに解説します。

内省とは何か

内省とは、自分の考え・感情・行動を、良し悪しの判断をいったん脇に置いて観察し、言葉にすることです。

よく混同されるのが「反省」です。反省は、自分の過ちや足りなかった点を振り返り、改めることを指します。反省が「何が悪かったか」から入るのに対し、内省は「何が起きていたか」から入ります。

経験から学ぶ流れを整理した、デービッド・コルブ氏の経験学習モデルでは、学びは「経験する→振り返って観察する→教訓を引き出す→次に試す」の順に進むとされています。

内省は、このうち2つ目の「振り返って観察する」にあたります。研修で得る知識は3つ目の「教訓」に近いものです。自分の経験を観察する段階を飛ばしたまま教訓だけを受け取ると、それは自分の行動と結びつきにくくなります。

自分を分かっている人は、実は10〜15%程度しかいない

組織心理学者のターシャ・ユーリック氏らは、約5,000人を対象にした10の調査で、自己認識とは何か、どうすれば高められるのかを調べました(2018年、ハーバード・ビジネス・レビューで発表)。

その結果、ほとんどの人が自分は自己認識できていると考えている一方、研究チームの基準を満たしたのは10〜15%程度と推定されています。

ユーリック氏は、自己認識を2つに分けています。自分の価値観や強み・弱み、感情をどれだけ明確に分かっているかという「内的な自己認識」と、他者から自分がどう見えているかをどれだけ分かっているかという「外的な自己認識」です。この2つは、必ずしも連動しません。

研修で学んだことが行動に移らない理由の一つは、ここにあると僕は考えています。学んだ内容以前に、自分が普段どう考え、どう動いているのかを、本人が正確に分かっていないのです。

内省しても変わらない人がいる理由

では、内省してもらえばいいのか。ここで、同じ研究のもう一つの結果が効いてきます。内省をよくする人ほど、かえって自己認識が低く、仕事の満足度やウェルビーイングも低い傾向があったのです。

ユーリック氏は、問題は内省そのものではなく、やり方にあると指摘しています。自己認識を深める問いとして、「なぜ」は意外なほど効果が低いというのです。

心理学では以前から、人は自分の行動の本当の理由に意識的にはアクセスできないことが多く、もっともらしい理由を後から作り出してしまうことが知られています(ニスベット氏とウィルソン氏の1977年の研究など)。

「なぜ自分はあんなことを言ったのか」と問うと、この働きが強く出やすくなります。

代わりに勧められているのが、「何が」を問うことです。

「なぜ自分はできないのか」ではなく、「何が起きていたのか」「何がうまくいかなかったのか」。問いを変えるだけで、目線は自分を裁くことから事実を観察することへ移ります。

変化の起点は、事実を観察して言葉にすること

InsideSparkの受講者に、実際にこの変化が起きた例があります。

その受講者は以前まで何か問題が起きると、「これは僕の責任です…」とだけ、うつむいて上司に報告していたそうです。

受講後、同じような場面での報告が「これは僕の責任で、原因は◯◯なのでこう改善します!」に変わりました(受講者の上司からいただいた声より)。

責任を引き受ける姿勢は、以前から変わっていません。変わったのは、その後に「何が起きたのか」を観察し、原因として言葉にするようになったことです。

反省で止まっていた振り返りが、内省になり次の行動につながるようになりました。

研修で学んだことが使われない理由については、これまでにも別の角度から書いてきました。

・「研修転移とは?学びが現場で使われない構造的な理由」は、学びと現場をつなぐ仕組みの話です。
・「認知の歪みとは?同じ失敗を繰り返す理由」は、出来事をどう解釈するかという癖の話です。今回の内省は、そのさらに手前、解釈する前に事実を観察できているかどうかの話です。
・「内発的動機づけとは?「やらされる」が「やりたい」に変わる4段階」では、「やりたい」への転換点は実感だと書きました。

その実感も、何が効いたのかを観察できて、初めて手に入るものです。

上司にできるのは、評価ではなく事実を返すこと

外的な自己認識は、一人では育ちません。

自分が周りからどう見えているかは、周りから伝えてもらうしかないからです。ユーリック氏も、率直に伝えてくれる存在を持つことの大切さを挙げています。

ここで上司にできるのは、「良かった」「もっと頑張れ」といった評価の前に、観察した事実を返すことです。たとえば

「会議で数字を先に出してから説明したら、相手の質問が具体的になっていたよ」。

評価は受け入れるか反発するかになりがちですが、事実であれば本人が自分で意味を考えられます。1on1で「なぜできなかったの?」と聞いていたなら、「何が起きていた?」に変えてみるだけでも会話の向きが変わります。1on1が機能しなくなる構造的な理由は、「1on1が意味ないと感じる本当の理由」で解説しています。

ただし上司自身の自己評価も、当てになるとは限りません。

ユーリック氏が紹介している研究では、経験の長いマネジャーほど、自分のリーダーシップを正確に評価できていない傾向がありました。立場が上がるほど、周りが率直なフィードバックを伝えにくくなることも、背景として指摘されています。

部下に「事実を観察しよう」と求める前に、上司自身も自分の関わり方が部下から実際にどう受け取られているかを確かめてみる価値があります。

InsideSparkでの実装

InsideSparkでは、基礎研修の後、毎日AIコーチング「ウチガワ」との内省に取り組みます。その問いの多くは、評価ではなく事実から始まります。

たとえば「今日発生した問題を1つ、事実ベースで具体的に教えてください(感想や解釈は含めず、起きた事実のみ)」と問い、そこから最初に湧いた感情、その感情を生んだ自分の中の前提へと、順に掘り下げていきます。

「なぜ」を使うこともありますが、それは自分を責めるためではなく、問題の原因や判断の理由について仮説を立てるためです。

そして月に一度の上司報告会で、本人が言葉にした変化を上司と一緒に確かめます。内側からの観察と、外側からの観察を、1年間回し続ける仕組みです。

この記事のFAQ

内省が苦手な部下には、どう促せばいいですか?

いきなり「振り返ってみて」と頼むより、「今日あった出来事を1つ、事実だけで書いてみて」と範囲を絞る方が始めやすくなります。感想や解釈と事実を分けて書くだけでも、内省の第一歩になります。問いかけるときは、「なぜ」より「何が」を使うのがおすすめです。

自己理解は、研修で教えられますか?

研修で渡せるのは、観察のための視点ときっかけです。自己理解そのものは、日々の経験を観察し、言葉にすることを繰り返す中で育ちます。一度の研修で完結するものではなく、研修の後に観察を続けられる仕組みがあるかどうかで、結果が分かれます。

まとめ

・部下に振り返りを促すときは、「なぜできなかったの?」ではなく「何が起きていた?」と聞く
・振り返りは、感想や解釈を除いた「事実」から始めてもらう。たとえば「今日あった出来事を1つ、事実だけで書く」
・上司は、評価の前に、観察した事実を返す
・部下に事実の観察を求める前に、上司自身も、自分の関わり方が部下からどう受け取られているかを確かめる

研修で「分かった」と言う部下が変わらないとき、足りないのは知識ではなく、自分に起きていることを観察する習慣なのかもしれません。自社の場合はどうなのか、無料の個別相談会でお話を伺います。

出典

  • Eurich, T. (2018). What self-awareness really is (and how to cultivate it). Harvard Business Review. https://hbr.org/2018/01/what-self-awareness-really-is-and-how-to-cultivate-it
  • Kolb, D. A. (1984). Experiential learning: Experience as the source of learning and development. Prentice-Hall.
  • Nisbett, R. E., & Wilson, T. D. (1977). Telling more than we can know: Verbal reports on mental processes. Psychological Review, 84(3), 231-259.
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